ofellabuta

おしゃぶり豚

ふしぎの国のアリス(ポプラ社文庫版)

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翻訳:蕗沢忠枝 挿絵:中島潔

出版社:ポプラ社 刊行日:1982年10月初版 1997年02月 19刷

翻訳者について

蕗沢忠枝(ふきざわ ただえ)

千葉県出身の翻訳者。日本ペンクラブ維持会員、日本翻訳家教会理事。
主な訳書に、「オリエント急行殺人事件」「ねじの回転」「マガーク少年探偵団シリーズ」など。

挿絵画家について

中島潔(なかじま きよし)Wikipedia

満州出身の日本画家、イラストレーター。
古き良き日本の子供を描いた作品で良く知られる。

公式サイト:中島潔 nakashimakiyoshi - アトリエウメ 日本画家 中島潔の公式ホームページ 

翻訳について

冒頭はこんな感じ

アリスは、おねえさんとならんで、ちょこんと土手にすわっているうち、なんにもすることがなくて、あきあきしてきました。 ちょっと一、二回、おねえさんの読んでいる本をのぞいてみました。でもその本には、絵もないし会話もありません。 「あらまあ、絵も会話もない本なんて、いったいなんのためにあるのかしら?」 と、アリスは考えてしまいました。

トラディッショナルな児童文学スタイルといった印象。マッドハッターは「ぼうし屋」、モックタートルは「にせスッポン」と訳されている。

「にせスッポン」という訳語は珍しい。ウミガメとスッポンは全く違うが、日本で食用とされる亀というとスッポンがまっさきに浮かぶだろうからスッポンにしたのだろうか。でも「にせスッポンのスープ」なんて料理はないから何で「偽」なのか意味が通らない。これはあんまり良い訳とはいえないと思う。

挿絵について

カラーは表紙の1点、モノクロ16点。

アリスは黒い髪、表紙のカラー画はいかにも中島潔という印象。悪く言えば日本の子供にしか見えないが、本文中のモノクロの挿絵は表紙とはだいぶ印象が異なり、より快活なアリスらしいアリスとなっている。服装は定番のエプロンドレス。

他のキャラクターはテニエルの造形を踏襲したものだが、モックタートルは牛というより豚の顔のように見える。どちらにしてもその容姿はウミガメ+牛(豚)というテニエルの引き写しで「にせスッポン」という本文中の呼称からは程遠い感じ。

備考

巻末に翻訳者の手による解説が掲載されているのだが、

ルイス・キャロルは一生、十歳以下の少女をしか愛せなかった――」という神秘的な伝説さえ残っています。そしてそれを裏づけるように、可憐な逸話も――。 「ふしぎの国のアリス」が世界のアイドルになったころ―ルイス・キャロルは三十四歳のときに、十三歳になったアリス・リデルに正式に結婚を申しこんで、両親からことわられました。スキャンダルめいているというので、それまでアリスにだしたきれいな手紙も、みんな焼きすてられてしまいました。 ドジスン先生はそれから一生涯、ほかのだれも愛さず、だれとも結婚しませんでした。

という記述があって、古い本とはいえあまり根拠のない噂話を児童書の解説に書くというのはあまりよろしくないなと。

ルイス・キャロルのアリス・リデルへの求婚に関する噂については、The Rabbit Hole: The site of Lewis Carroll and ‘Alice’ books の「リデル家との仲違いと「求婚伝説」の嘘」に詳しい。